Re:imagining activism(1章)

なぜアクティビズムを再構築することが必要なのですか?

あなたは気候変動、貧困、人権などの世界的な問題の解決に取り組んでいる活動家ですか?
今日の活動や市民社会組織が行っている方法の多くは、効果がないと思っていますか?
ここでは、今のままでは効率的ではないと思われる理由のいくつかを探ります。

体系的グローバルな危機だから

地球の健康状態を測定するほとんどの指標は、マイナスの傾向を示しています。
気候変動、生物多様性の損失、海洋の酸性化、淡水資源の縮小は、すべて地球上の生命に対する深刻な脅威ですし、世界的な不平等は数十年にわたって深刻化しています。

これらの危機は、ま​​すます複雑に絡み合っています。
経済開発、気候、金融、生物多様性、安全保障、民族の移住などの問題は深く関連していて、個々の問題解決に焦点を当てるだけでは適切に対処することはできません。

これらの体系的かつグローバルな危機は、経済的、政治的、社会的システムの本格的な再考を必要とします。残念ながら、ほとんどの活動家たちは、より深い体系的変化に取り組んでおらず、戦略の体系的変化の複雑さに気がついていません。
このハンドブックでは、より深い体系的問題に取り組む際に、なぜ市民社会組織と市民活動家ネットワークが、潜在能力をフルに活用できていないかを分析していきましょう。

現状に対する方策に偏りすぎるから (p.5)

短期的な影響に私たちの活動の焦点を当てていくことは、人々と環境へのダメージを避けるために重要かつ必須です。現実は、緊急を要しています。気候は温暖化し、人々は苦しみ、たくさんの種が絶滅しています。市民社会組織が行うことの多くは、貧しい人々、疎外された人々、環境をリアルタイムで支援する実用的で重要な仕事です。

しかし、私たちは、表出している状況に対処しても、根本的な原因に対処することはできないということを認識する必要があります。

悪の枝葉をはらう者が1000人いれば、その根の切る者はたった一人だ。


デビッド・ソロー

キャンペーンというのは、その定義上、実践的でなければなりません。キャンペーン担当者は観客を引きつけるために測定可能な短期から中期の目標を設定し、資金提供者に対する信頼を維持します。しかし、早期解決のみに焦点を当てた場合、キャンペーンは問題を生み出します。根本的な原因に対処せず、実際に問題は解決していないときでも、解決しているという幻想を生み出すことができるからです。

技術の変化を促進するほとんどのキャンペーン(例を参照)、貧困と闘い、援助するための資金調達を目的とするキャンペーンは、この点で問題があります。

製品の生産システムやグローバルサプライチェーンのエネルギーとリソースを豊潤にし、害を及ぼす影響を少なくすることは重要なのですが、消費者向け製品の現在の成長率では、これらの対策の全体的な影響は、イタチごっこに過ぎません。

貧困や緊急事態に対する援助と技術サポートは、困難を軽減するために不可欠ですが、そのような活動は、貧困の根本原因に取り組むことにはならず、援助への依存を生み出す可能性もあります。さらに、経済開発を目的とした開発協力は、北側諸国の生産と消費のパターンを再現するものとなり、惑星限界(地球全体の限界量)とは両立できません。

システムのより深い変化へと人々をいざなわないかぎり、問題を解決できないだけでなく、問題を永続させる可能性があります。あまりにも強固な現実主義とその戦術に意識を向けすぎると、持続不可能な現状を強化してしまう可能性があるのです。

【質問】あなたの活動の成功をどのように定義しますか?
適切な目的を設定していますか?
あなたの目的は、効果的で長期的な変化に貢献するように設計されていますか?

政治とビジネスのゲームとなっているから(p.8)

政府と大企業は、今日の社会において最も強力な組織です。過去数十年の間に市民社会組織がますます専門化していく中で、権力に影響を与える最も効果的な方法は、 政策のために専門知識を積み上げ、政府や企業にとって信頼・尊敬される関係者になることだと信じられてきました。市民社会組織は、UNFCCCやSDGのような国内および国際レベルでの協議や政策プロセスに定期的に参加しており、多くは大企業とのパートナーシップを築いてきました。

その結果、市民社会組織は政策決定にかなりの影響力を持つようになりました。特に一般市民の効果的な動員と啓蒙活動を巧みに組み合わせた場合には、それが顕著でした。しかし、どこかで多くの市民社会組織は、持っていた野心を失い、政府や企業によってどんどんと道具化されてしまいました。おそらく、日々の政治に関与した結果、彼らは戦術に傾倒し、主張となるべき視点を見失ってしまったのではないでしょうか

これは、短期的にはシステムをより耐えうるものにするために支払う価値ある代償かもしれませんが、システムチェンジの観点からは明らかに問題があります。今日の政治・経済システムは、既得権益が複雑な網の目のように広がっていて、根本的な変化に対して強い抵抗力があります。社会の主流からの啓蒙活動は、最高の状態では漸進的な変化に貢献し、最悪の状態では現在のシステムを強化することになってしまうのです。

このハンドブックの中では、その代替案についても後述します。

【質問】あなたの啓蒙活動は、長期的にわたるシステムチェンジにどの程度貢献していると思いますか?

コラム

ほかには代わりはない!しかたがないから、「アクション2015」キャンペーン!に参加にしよう! (p.10)

「アクション2015」キャンペーンは、”貧困を終わらせ、基本的権利を満たし、不平等や差別に取り組み、100%再生可能エネルギーへの移行を達成する “ことを呼びかける世界的なキャンペーンでした。2015年7月時点で1,600団体が署名しました。このキャンペーンの目的は、2015年9月の持続可能な開発目標に関する世界協定や、気候変動に取り組むための世界的な合意(COP21)に焦点を当てた12月のパリ協定で、「野心的な」成果を達成することにありました。

Action2015 は、国連 SDGs の公式文書の浅はかな語り口を真似ており、貧困と気候変動のより深い根源的な原因はおろか、これらに取り組むためのより深い構造的な変化にも言及していません。これらのプロセスは明らかに、システムとしての大きな変化への野心を欠いており、市民社会がこれまで頻繁に行ってきたことと同じゲームをしているだけなのです。せいぜい、ある程度改善する建設的な提案をするだけで、政府が大部分を守ろうとしている国の既得権益に起因する制度的な決まりごとには取り組むことができないし、取り組むことさえもめざしていないのです。

Action2015キャンペーンに参加している多くの組織は、これらの欠点をあまり気にしていないかもしれませんでしたし、より根本的な変化の必要性を信じている組織の中にも、公式の制度的なアジェンダに従うこと以外の方法を見出せないため、このキャンペーンに署名した組織もあります。現実のシステムチェンジをするために、このようなものに代わる方法を構築しなければならない理由は、まだまだありそうです。

個別の課題ごとに解決しようとするから (p.11)

アクティビズムは、特定の問題に焦点を当てるという長い歴史があり、まちがいなく成功してきました。実際、人権や環境運動の多くの闘争は単一の問題に焦点を当てることで勝利を収めてきたのです。そして今日でも、単一の問題に焦点を当てることは可能です。たとえば、ゲイの権利運動は、近年、途方もない成功を収めています。

しかし、今日の問題の体系的で複雑な性質を考えると、問題ごとの対応では不十分なことが多いのです。単一の問題に焦点を当てることで、根本的な原因に取り組むのではなく、症状を修正する傾向となります。また、諸問題のシステム的なつながりの理解を深めることよりも、問題に対する深い専門知識を身につけることに重点を置くことになってしまいます。

機関篤志家にしても、組織の資金調達部門にしても、複雑で長期的なビッグピクチャー(全体像)に取り組むのではなく、狭く短期的な課題へのアウトプットに焦点を当てるということが、しばしば起こります。

単一の問題を抱えた闘争などというものは存在しない。
私たちは単一の問題を抱えて生きているわけではないのだから。
―オードレ・ロルドー

【質問】
・根本的な原因に取り組むかわりに、どの程度まで単一の問題や争点に焦点を当てていますか?
・寄付をしてくれる人や資金を調達する人は、その中でどのような役割を果たしていますか?

23時症候群に悩まされるから (p.12-13)

言うまでもなく、多くの活動家は強い危機感を感じて活動をしています。大惨事が近づいていることを察知し、災害を回避するために、ますます急いで活動しています。結局のところ、手遅れになる前に世界を救うのが自分たちの責任だと感じているのです。

これが「23時症候群」です。

より多くの資金を集め、より多くの会議を開き、より多くの会議に出かけ、より多くの報告書を書き、より多くのメールを送信しなければなりません。活動家はしばしば、時間との闘いに身を投じていることに気づきますが、やるべきことは山のようにあります。その結果、多くの活動家がストレスと燃え尽き症候群に苦しんでいる割合がとても多いのです。

世界を救わなければならないという正当な理由で、そのようなアクティビズムは、私たちが変革を目指す世界のスピード、効率、成長のパターンを無意識のうちに再現してしまいます。「緊急な問題である」ということを、根本原因に取り組まない言い訳として使っているのです。「価値観を変えている時間はない」という言葉を耳にすることがよくあります。

23時症候群になると、活動家がじっくりと自分たちの活動を考えることが阻害されます。私たちは、パターンに気づいて戦略を適応させるのではなく、常に物事を成し遂げるためにレースをしているのです。

さらに、長期的には、緊急性の高いメッセージや脅威のシナリオで聴衆のモチベーションを高めようとしても、うまくいきません。これらが耳に入ることが、一般の人たちにとって普通になってしまい、影響力は消えていきます。また、対処しなければならない深い心理的な問題もあります。私たちは、この症候群の背後にある個人的な動機のいくつかを意識する必要があります。第6章では、これを掘り下げていきます。

【質問】
・あなたの活動家としての仕事に、どの程度ストレスを感じていますか?
切迫感に駆られていますか?
・どのくらいの時間を内省に費やしていますか?

「敵との闘い」になってしまうから (p.14-15)

社会運動の多くは、「支配階級、抑圧的な政府、裕福なエリートらに対する抵抗や闘争」だと定義づけられます。

活動家たちは素早く敵を特定し、闘いを挑むことが得意です。世界的不均衡をもたらしている1%の富裕層、性差別主義的発言をしたイギリスの教授、クーデターでギリシャを征服したメルケル首相…。ツイッターでは、敵を標的にする嵐が猛スピードで吹きまくっています。

ソーシャルメディアは複雑さの軽減と、正義と悪についての迅速な合意を大きく助長する傾向があります。 私たちは、ソーシャルメディア上で自分たちと似た考えを持つコミュニティとつながり、情報が多すぎる時は自分の考えを再確認させてくれるものだけをインプットします。異なる意見を持つ人たちは炎上を恐れ、沈黙を守ります。いわゆる「沈黙のスパイラル」が起こります。こうして私たちは均一な思考を持つ暴徒と化すのです。

一般的に、私たちは問題を誰かのせいにする傾向があります。何か悪いことが起きた時にはそれを誰かのせいにすることが好きなのです。もちろんそれが正しい場合も多々あります。 弾圧は自然現象ではありません。 強い立場にある人々(政府など)の行動には責任が伴います。しかし敵の擬人化は問題の単純化につながります。うまくいけば敵を明確化することでメッセージが鮮明になり、キャンペーンがより効果的になりますが、最悪の場合、問題を取り違え、まちがった敵と闘うことになります。

現代のシステム上の問題は、特定のグループの欠陥によるものではありません。 主要な敵がいるとすれば、それはシステムそのものです。 システム全体がシフトするためにはあらゆるレベルでの変革が必要です。 体系的変化に抵抗する特定の特権グループによる権力の濫用がひとつのカギとなっていることは疑いようもありませんが、正義か悪かというものさしで世界を二分することはあまり意味がありません。 私たち全員がシステムの一部であることを自覚した上で働きかけていくことが大切です。その複雑さに向き合っていかなければならないのです。3章以降で、どのようにすればよいのかを説明していきます。

【質問】
あなたの活動は、どの程度、特定の誰かとの闘うものなのでしょうか?

好ましくない価値の再生産につながるから (p.16)

多くの市民社会組織や活動家ネットワークは、一貫性のある科学的分析や政策提案などを通して合理的議論をしようしたり、日々の政策に影響を与える賢明な枠組みを作成して政治的議論で勝利を収めようとしたりします。

しかし各自の組織やネットワークがどのように文化的価値観に影響を与えるか、そして、その影響というのはなぜ重要なのかという件については、あまり着目されていません。

合理的議論の効力を信じるあまり、私たちは人々の行動や意思決定における潜在意識の重要性を過小評価しがちです。そして文化的価値観への影響には気づかず、問題を解決しないやり方で活動してしまうこともよくあります。

価値観から逃れられるものなどありません。私たちは、メッセージやコミュニケーションのやり方や、個人や組織の行動を通して価値観を体現します。私たちは、意図せずして、自己利益の追求、消費主義といった現代の慣例に加担してしまうことが多々あります。これが問題なのです。研究の結果、気候変動や不平等など個人の範囲を超えた問題に対して、物質主義的な風潮が主流であればあるほど、人々は手を差し伸べようとしないということがわかっています。

次の章ではこうした落とし穴について考え、文化的価値観と枠組みをより深く理解することで、どのようにキャンペーンや組織をより効果的に運営できるようになるかを探ります。

【質問】
・現在のキャンペーン・活動の根底にある価値観は何ですか?
・その活動の文化的価値観への潜在的な影響をどのくらい認識していますか?
・あなたはどの程度、有用な価値観、または有用でない価値観に関わっていると思いますか?

コラム

自然は価格をつけることでは守れない (p.17)

2015年、WWFは「海洋経済の復活」という報告書を発表しました。ビジネスコンサルタント会社のボストン・コンサルタンシー・グループが共同執筆したこの報告書では、海洋には24兆ドルの金銭的価値があるとしています。WWFはSDGやCOP21といった世界的な協定を通じて海洋を保全するよう呼びかけていますが、その中心的な主張は経済的なもの(海洋は世界経済に計り知れない価値を提供しているといった主張)です。この戦略の論理は明らかです。WWFは、意思決定者が用いる経済的な言語で語ることが、目標を達成するために最も効果的であると考えているのです。

経済価値について語ることが海洋破壊の解決策になるとすれば、これは妥当なアプローチかもしれません。しかし、そうではありません。経済的な議論は、海洋を破壊することで利益(たとえば48兆ドルだとしましょう)を得ることができるならば、破壊すべきだと示唆することになります。しかし海洋は地球上の生命にとって不可欠であり、金融資産のように分離して評価することはできません。海洋が失われた時、それに代わるものなどないのです。*3

自然保護を経済的視点からとらえようとするWWFの戦略は、そもそもの問題の原因となっている価値観やフレームを強化してしまうという点で大きな問題なのです。

コラム

「貧困を過去のものにしよう」キャンペーンが失敗した理由 (p.18)

2005 年「貧困を過去のものにしよう」キャンペーンは全世界で何千万人もの人々を動員しました。エジンバラではG8 サミットに先立って25 万人近くの人々が 行進しました。540ものCSO団体が 「貧困を過去のものにしよう」英国支部の キャンペーンの名の下に連携し、この歴史的なデモを主催しました。

短期的視点から見れば、このキャンペーンは大成功だったといえます。人々を勇気づける分散型の戦略、斬新で効果的なキャッチフレーズなどが原因としてあげられるでしょう。

また有名人の支持とLive8のコンサートのおかげで、メディアにも大きく取り上げられました。キャンペーンの結果、「極度の貧困を大きく懸念している」と答えた人の割合は25%から32%に増加しました。

しかし、2011年にはこの割合は24%にまで低下し、キャンペーン前よりも低くなってしまいました。なぜこのようなことが起こったのでしょうか?

2011 年の「ファインディング・フレーム」という報告書では、このキャンペーンは、自己利益、自由市場、消費者主義といった価値観と枠組みを強化してしまっていて、貧困を解決するための長期的なコミットメントは生み出していないことを示唆されています。

「貧困問題に取り組むとは、慈善団体に寄付すること」と単純に理解されたメッセージがあまりにも強く伝わってしまいました。また有名人を起用したことで、意図に反して市民の外的動機を高め、主催者が意識していた問題に対して行動を起こすための市民のより深い内的動機に有害な影響を与えてしまったのです。

世界を変化させないためにお金を使っているから(p.18)

資金調達のあり方は、CSOs(市民社会組織)の戦略展開が限定的な問題解決に終始しがちな理由のひとつです。 ここ十年の間、民間財団や公的助成組織を含む多くの助成組織は、助成を受ける個人や団体に対し、より明確な測定可能な目標に着目させ、それによってリスクのある革新的かつ体系的な取り組みは敬遠させる結果となっています。

こうした資金調達戦略がなされる理由は、以下の二つに大別されます。

1つ目の理由は、民間で助成団体を設立し管理する多くの慈善家と、公的助成金の最終的な責任者である政府の共通した強い関心が、「現状維持」にあるということです。 こうした助成支援計画はより根本的なシステムチェンジを遠ざけ、慈善家たちの金融投資や資産の価値を維持するよう意図して設計されています。それゆえ彼らは貧困問題への取り組みや環境保全のためのテクノロジーへの支援を好みます。

2つ目の理由としては、それ以外の既得権益に関与がないか少ない民間団体だったとしても、非常に保守的でリスクを嫌い、革新的なシステムチェンジの戦略に着手したがらないからです。 こうした組織には根本的な矛盾がつきまといます。助成団体の基盤となっている資産は、変わるふりをしているだけの非常に不平等なシステムから生まれたものです。 助成団体の多くはお金の力にまつわる問題にはまだ取り組んでいません。こうした組織は非常に階層的で不透明です。補助を受ける人たちとの関係や信頼を発展させることができない、またはできるとしてもしたがらないため、適切なシステムチェンジの戦略やふさわしい評価法用についての共通見解を見いだすことを難しいのです。

第7章では、どのようにすれば、助成団体にシステムチェンジのための運動に参加してもらうことができるかを考えます。


パーマカルチャーツアーやってるよ。